二つの中学校の統合によって誕生した中野区立明和中学校。生徒の成長・学び・地域との交流を促進する「開放的で多様性に富んだ学びの場」として設計した新校舎は、防災設備やICT(Information and Communication Technology)が整備された次世代型の中学校として、2024年12月に竣工しました。建物の高さが10mに制限された土地に3階建ての学校を設計するという難しい条件の下、生徒の皆さんに低い・狭いと感じさせない、居心地の良い校舎づくりを目指しました。
PROJECT STORY 03
閑静な住宅地に誕生した新校舎。
「小学校からのステップアップ」をコンセプトに洗練された空間をつくりました。

二つの中学校の統合によって誕生した中野区立明和中学校。生徒の成長・学び・地域との交流を促進する「開放的で多様性に富んだ学びの場」として設計した新校舎は、防災設備やICT(Information and Communication Technology)が整備された次世代型の中学校として、2024年12月に竣工しました。建物の高さが10mに制限された土地に3階建ての学校を設計するという難しい条件の下、生徒の皆さんに低い・狭いと感じさせない、居心地の良い校舎づくりを目指しました。

関係者の所属・役職はプロジェクト遂行時のものです。



①②③
①メディアセンター。天井から吊り下げた丸いライトは学校の象徴に。
②バルコニー。外観をスッキリ見せる透明感のある手すり。
③階段と踊り場。白と木質を基調に黒をアクセントとした落ち着いた色味の内装。
意匠設計・監理鈴木 京平 Kyohei Suzuki

私にとって今回が3度目の学校設計となります。これまで培ってきた経験や知識を最大限に生かせるチャンスだと考え、「いい学校をつくりたい」という思いで、細部までこだわって取り組みました。
例えば、メディアセンター(図書室)は生徒の皆さんが自然と集まり「学校の中心」となるような空間にしたいという思いから、吹き抜けをガラス張りにし、上階からもその存在を感じられるよう設計しています。また、天井を高くすることで明るく、開放感がある空間を目指しました。さらに、ブックカフェなどの商業施設を参考に、床に段差をつけた「ひな壇」や、靴を脱いでくつろげる「小上がり」のスペースを設けることで、思い思いに過ごすことのできる、居心地の良い場所となるよう工夫しました。これらの空間に浮かぶ丸いペンダントライトは、このプロジェクトにかける皆の思いを象徴するような存在です。こうしたデザイン性のあるライトは公立の学校では採用が難しい傾向にありますが、関係各所の皆さまの理解と「個性のある学校にしよう」という熱意に支えられ、今回実現することができました。
また、実際に学校を使う生徒の皆さんの気持ちも大事にしたいと考えました。この年代は、「もう中学生なんだから…」と言われることも多いはず。そんな彼らの成長をこの空間が後押しする存在でありたい。という思いから「小学校からのステップアップ」をコンセプトに、幼さを感じさせないよう設計しました。学校建築ではポップな色合いが使われることが多いのですが、今回はあえて白と木質を基調に、アクセントとして落ち着いた色味の「黒」を使用することで、「大人への一歩」を感じられるようにしています。

長期間のプロジェクトでしたが、細部まで妥協することなく、関係各所の皆さまと連携しながら形にしていきました。教室のバルコニーに設置する手すりもこの学校のためのオリジナルのデザインで細部にこだわった部分です。わずかな寸法の変更が見え方や強度に影響するため、実寸サイズのモックアップを製作し、実際の見え方や細部の仕様を検証・確認するプロセスを経て、関係各所の皆さまが納得できるかたちで完成させました。
施工中においては、通算100回を超える定例会議の進行役を担い、現場全体の調整を行いました。施工者とお客さまの間に立って意見を調整することが私の役割です。どちらかに妥協を求めるのではなく、お互いにとって最適な解決策を探っていきました。密なコミュニケーションを重ねることで関係各所の皆さまとは良好な信頼関係を築くことができました。
長期のプロジェクトであったので、竣工を迎えたときの感動はひときわ大きいものでした。多くの苦労もありましたが、「鈴木さんのおかげです。」という言葉をいただくたび、設計者として大きな達成感を感じました。自身が手掛けた空間が実際に利用されている様子を見ると、「長い期間の苦労があっても、この一瞬で報われるな。このために仕事をしているのだな。」と心から思います。



①②③
①外観。高さ制限のある住宅街に建つ、洗練された校舎。
②外の明るさをふんだんに取り込んだ廊下。
③プール。青空に映えるルーバー。
構造設計・監理磯崎 翼 Tsubasa Isozaki

プロジェクトの中で私が最初に取り組んだのは、敷地条件の整理でした。明和中学校の建設地は住宅に囲まれた第一種低層住居専用地域で建築物に高さ制限があり、近くに川も流れています。さらに住宅地の中の道路は狭く、川は工事中で橋が使えないなど搬入経路に制約もあり、設計における課題は少なくありませんでした。
このような難しい条件下でも、理想の空間をいかにして実現するかを追求し、複数の工法を比較検討しながら制約条件を乗り越えるための最適解を導き出しました。
構造設計は建物の完成図をイメージすることも大切ですが、それ以上に、工事プロセスを深く理解することが求められます。図面での確認にとどまらず、実際に現地を歩いて状況を把握した上で、基礎工法や搬入方法について検討を重ねました。通常使用する基礎杭は搬入が困難であるため、搬入可能な小径の鋼管杭を、基礎下に複数本打設する群杭を採用しました。これにより、建物の安全性を確保しながら、資材搬入という課題も解決しました。
鉄筋コンクリート造の建物は職人が現場で型枠や鉄筋を組んで造っていくため、一般的にはどの現場でも使えるオーソドックスな工法が良いとされますが、今回は法的制限である建物高10mという制約の中、地上3階建ての階高を確保するために工法を工夫する必要がありました。教室の天井裏のスペースを広く確保するために採用した「ボイドスラブ*1」は学校建築では採用事例が少なく、慎重に検討を重ねました。必要な設備を納めた上で、天井高を確保したいという設備設計からの要望に応えるかたちで採用に至りました。同様に、体育館の屋根についても、複数の工法を比較検討し、鉄骨の3次元トラス*2よりも天井高を確保できる「PC*3梁」を使用しました。
こうした各種工法を工夫することで、制約がある中でも開放感のある空間を実現しました。

本プロジェクトは、私が構造設計の主担当として携わった初めての仕事でした。厳しい条件の下、理想の空間を実現するためには杭、スラブ、梁とさまざまな工夫を凝らした工法を採用する必要がありました。構造は、問題が起これば人命にかかわる部分も大きくなります。このため、設計会社として積み重ねた実績や先輩の知見を活かし、自身も工法への理解を深めながら慎重にプロジェクトを進めました。さらに、関係各所の皆さまや施工者とも密に連携しながら一つ一つ確実に課題を乗り越えていきました。
構造設計は、建物が完成すると表面からは見えなくなってしまう部分ですが、建物自体を形作り、安全性や耐久性を左右する重要な役割を担っています。常に意匠設計、設備設計の担当者と密にコミュニケーションをとり、デザイン性、機能性、安全性のどれもが満たされた理想の建物を作るためにはどうすべきかを追求しています。
工事開始後は監理担当として、毎週現場に通い、配筋や鉄骨など、各工程の検査を一つ一つ丁寧に行いました。将来的な安全性を見据え、より品質を高めるために施工者と協議を重ね、改善を促しました。設計開始から5年半にわたる長期プロジェクトであり、試行錯誤したことも多くありました。その分、竣工時には「ずっと携わってきた建物が、ついに完成した。」と設計者としての責任を果たせたという思いとともに、達成感を強く感じました。



①②③
①普通教室。折り上げ天井を採用し、天井の高さを確保。
②体育館。引き締まった黒色の天井。キャットウォーク下に設備を集約。
③武道場。鍛錬の場にふさわしい、凛とした空間。
機械設備設計・監理大森 由貴 Yuki Omori

新卒1年目で本プロジェクトに携わった私は、機械設備設計の担当として、空調や換気の方式を検討するところからスタートしました。そして、上司や知見のある設備設計の先輩に相談し、アドバイスをもらいながら設計を進めていきました。
お客さまからは「教室の天井高を2,700mm確保したい」という強いご要望がありました。これは一般的な学校建築に求められる高さではありますが、今回は高さ制限や構造上の制約が厳しく、通常の手法で設計すると天井全体を2,400mm程度まで下げざるを得ないという大きな課題に直面しました。
この難題を解決するため、意匠設計、構造設計、設備設計の担当者間で調整を重ねてあらゆる可能性を模索し、「ボイドスラブ」の採用と、給排気ルートの徹底的な合理化を図ることに至りました。その結果、必要な設備を効率的に配置し、なんとか教室の中心部を2,700mmに「折り上げる」ためのスペースを確保できるようになったため、最終的には空間全体の開放感を損なうことなく、必要な設備を収めることが可能になりました。
完成した教室の天井裏には、空調ダクトや設備がミリ単位で緻密に配置されており、見えない部分にこそ、私たちの技術力が凝縮されています。
体育館や武道場でも、設備の存在感を抑え、空間全体に統一感を持たせる設計にこだわりました。体育館では空調機やダクトなどの設備をキャットウォーク下に集約し、空間に露出しないよう設計しました。武道場では腰掛けベンチの側面に空調換気の吸い込み口を設け、配管を床下に通すことで調和のとれた空間をつくりあげています。

判断に迷う場面では社内のメンバーや施工者に相談、確認しながら進めました。特に、意匠設計・構造設計のチームメンバーや先輩方から多くのアドバイスをいただき、設計をやり遂げました。さまざまな課題にも直面しましたが、実際に自分が設計したものが形になっていくことには、大きな喜びを感じました。若手のうちから責任のある仕事を任せてもらえる環境は、日立建設設計ならではの特長だと思います。経験が浅くても、会社の知見を生かしながら挑戦できる風土があり、成長を後押ししてくれます。今回このプロジェクトに参加したことで、設計者として大きく成長できたと実感しています。
今回、設計から実際の施工現場への立ち合いまでを担当し、重機や機材についても多くの学びを得ました。より特殊な機器や機材を使用する建築にも興味があり、今後は工場などの大型の施設の設計にも機会があればチャレンジしたいと思っています。

鈴木 京平
Kyohei Suzuki
今回の学校づくりでは、長期間にわたり多くの試行錯誤を重ねる中で、関係各所の皆さまと良い信頼関係を築くことができました。竣工の喜びもさることながら、「造って終わりにしない」という姿勢を大切にしています。このプロジェクトで生まれた関係性を糧に、今後はアフターフォローはもちろん、設計の枠を超えた新しい価値を関係各所の皆さまと共に生み出していきたいと考えています。

磯崎 翼
Tsubasa Isozaki
敷地条件の厳しい土地に対し、多様な工法を取り入れ、関係者と協議を重ねながら良い建物を実現できました。設計開始から竣工までの長期プロジェクトを通じて、設計者としての視野が広がり成長を実感しています。今後も、本プロジェクトで得た知識を生かしていきたいです。学校建築に携わる機会があれば、また新たな視点で取り組めると考えています。

大森 由貴
Yuki Omori
入社1年目というタイミングで、責任のある設計業務を任されたことは非常に貴重な経験でした。設計上の制約や収まりに苦労しましたが、チームの皆と協力し課題を一つずつ解決し、竣工時には大きな達成感を得ました。図面だけではわからなかったことも、実際の施工現場での調整を通じて意識できるようになりました。今後はこの経験を生かして、より複雑な案件にも主体的に取り組める設計者を目指していきたいです。
| 顧客名 | 中野区 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都中野区 |
| 用途 | 中学校 |
| 延べ面積 | 10,175.44m² |
| 主構造 | 鉄筋コンクリート造 |
| 階数 | 地上3階 |
| 竣工年月 | 2024年12月 |
