「Orange Innovation Plaza」は、日立建機のマザー工場である土浦工場に研究開発機能を集約し、新たな価値創造や従業員の生産性向上、社内・社外とのイノベーションを促進することを目的として建設したオフィスです。ネイバーフッド(部署内での最適化)の強化とABW(Activity Based Working)およびサードプレイスの場を充実させ、さまざまな人々の偶発的な出会い・発見・協創が生まれる、立体的な街のようなオフィスを目指しました。
【第37回 茨城建築文化賞 入選】
PROJECT STORY 02
オープンな研究開発オフィスから新たなイノベーションを。
「多様性」「快適性」「コミュニケーション」をコンセプトに変化に富む空間を作りました。
「Orange Innovation Plaza」は、日立建機のマザー工場である土浦工場に研究開発機能を集約し、新たな価値創造や従業員の生産性向上、社内・社外とのイノベーションを促進することを目的として建設したオフィスです。ネイバーフッド(部署内での最適化)の強化とABW(Activity Based Working)およびサードプレイスの場を充実させ、さまざまな人々の偶発的な出会い・発見・協創が生まれる、立体的な街のようなオフィスを目指しました。
【第37回 茨城建築文化賞 入選】
①②③
①Dig Road。部署をつなぐ通路空間を広く取り、ミーティングスペースを設置。
②DEN3 Library。六つのDENは個性や機能に変化を持たせた。
③従業員の方々とのワークショップの様子。ここからさまざまなアイデアが生まれた。
プロジェクト推進・意匠設計浅岡 翔太 Shota Asaoka
日立建機さまから、土浦工場構内における事務所の建て替え計画を「従業員参加型プロジェクトとして進めたい」という70周年事業のご依頼をいただき、プロジェクトがスタートしたのは2018年のことです。以前のオフィスは機密を守ることに重きを置いた造りだったこともあり、部署やフロアを超えたコミュニケーションがほとんど発生していない、非常に閉鎖的な環境でした。この大きな課題を解決するには、オープンな環境のオフィスが必要と考えました。
そこで、まず実施したのは従業員の方々とのワークショップです。参加いただいた方全員が、真剣に新しいオフィスでの働き方・人との関わり方・休憩の取り方を考えてくださり、「いろいろな部署と関わりやすいオフィスにしてほしい」「素敵な共有スペースが欲しい」「一人になれるスペースも欲しい」「のんびり休憩できる場所が欲しい」といった具体的な要望が数多く出てきました。白熱したワークショップから「多様性」「快適性」「コミュニケーション」という三つのコンセプトが誕生し、それをもとに従業員同士の出会いを偶発させてイノベーションを起こすことを目指した基本計画プランを立案しました。
従業員同士が出会う仕掛けとして、各フロアにある部署やチームの執務エリア周辺に全長130mの通路空間「Dig Road(ディグ・ロード)」を配置。さらに、上と下のフロアに縦の連続したつながりを作るため、2階層吹き抜けと階段がセットになった個性が異なる六つのコミュニケーションスペース「DEN(デン)」を配置しました。執務エリアを出て、Dig Roadを横断し、DENを介して上下のフロアを歩いて移動する中で、いろいろな部署のメンバーとの出会いや発見が生まれ、そこから大きなイノベーションが起きることを狙いました。
また、従業員一人一人の多様な働き方や休憩の取り方を実現するため、一人になれるブースや開放感を感じられる場所、のんびり休憩できるオープンキッチン・リフレッシュバルコニーなどを各所に配置。そして、バルコニーとリンクする外装は、建設機械で大地を開いた断面の「地層」を表現したダイナミックなデザインにしました。
竣工後、従業員の方々の働き方や他部署との関わり方、休憩の取り方などが以前と大きく変わったこと、さらに「このオフィスで働きたい!」という就活生や転職希望者が増えているというお話を伺い、私たちにとって大きな自信・実績になりました。
①②③
①オープンキッチン。リフレッシュバルコニーに出れば外気を感じられる。
②上下階のDENをつなぐ吹き抜けの階段が一体感をつくる。
③外観。建設機械が大地を切り開いたイメージを表現した。
意匠設計酒井 諒 Ryo Sakai
私がプロジェクトに参画したのは、新卒入社2年目のタイミングでした。このキャリアで、これほどまでに大規模なプロジェクトに意匠設計として参画し、ワークショップ・基本計画から監理まで一通り担当させてもらえたことは、日立建設設計ならではの文化かもしれません。えりすぐりのスタッフで結成されたチームの中で、私は先輩たちの胸を借りる立場ながら、“絶対に成果を出してやる”という強い思いを持って意匠設計に携わりました。
当社には若手の意見やアイデアにしっかりと耳を傾けてくれる風土があります。私はこのプロジェクトの中で、いろいろなことを提案しました。実際に、六つのDENの在り方やそれぞれに付随する階段の形状と内装を変えるアイデア、外装デザインにもつながるリフレッシュバルコニーのフロア外形をランダムに変化させるアイデアの検討は、提案した私がメインで担当。先輩たちの丁寧な指導と手厚いサポートのおかげで、これらを実現することができ、大きな自信になりました。
私がこのプロジェクトに参画して2年目の頃に新型コロナウイルスが蔓延し、世の中ではオフィスの必要性を疑問視する意見も出てくるようになりました。しかし、この期間中も私たちは日立建機のご担当者や従業員の方々、多くの関係者と何度も議論を重ねていました。そして、改めてオフィスで働くことの価値や人と人が対面でコミュニケーションを取る重要性を皆で認識することになったのです。結局、従業員同士のコミュニケーションを強化したいというお客さまからの要望はコロナ前より一層強くなり、規模が拡大しました。
今回のプロジェクトを通して、従業員の方々から直接ヒアリングした要望を設計に反映できたこと、上司や先輩たちが常に一歩先・二歩先を見据えてプロジェクトを推進している姿をずっと間近で見させてもらえたことなど、数えきれないほど多くのことを学び、経験させていただきました。また、自分が引いた線や決めた素材が形になり、それを従業員の方々に使っていただけることは本当に大きな喜びです。
①②③
①執務室。天井レスを実現し、安全性と快適性を追求した。
②DEN5 Park。屋外にいるような感覚を照明で表現した。
③外観の照明は、外壁の色と合わせてスマートなデザインに。
電気設備設計・監理渡邊 勇大 Yudai Watanabe
本プロジェクトには、2019年の基本計画から電気設備設計・監理補助として参画しました。電気設備の設計は多岐に渡りますが、特に力を入れたのは照明です。空間の雰囲気づくりには、光の色や明るさ・温度感が強く影響します。六つのコミュニケーションスペース「DEN」には、それぞれにふさわしい照明を設計する必要があり、人がどんな行動をする空間なのか、何を演出すべきなのかを考えて器具を一つ一つ選んでいきました。たとえば「DEN3 Library」には、読書に適した落ち着いた色の照明を、「DEN5 Park」には、昼間の太陽光のような白い光で空間全体を広く照らせる照明を採用。発表会などを行う「DEN2 Hall」では、照射する向きを変えられる仕様のダウンライトを選び、話者に視点を集める空間を実現しました。なかには図面だけでは空間の細かなイメージが固まらず、2カ月ほどかけて設計したものもありました。
最もこだわって設計したのは、この建物の大部分を占め、従業員のワークスペースの中心となる執務室です。モックアップを作り、照明や空調環境などの確認をしながら進行していきました。この空間には、天井レス方式を採用しています。通常、天井材を外したところにダクトや配管などが見えるのですが、本プロジェクトではそれらを極力なくすことで、すっきりとフラットで美しい天井を目指しました。照明計画を検討するにあたり配線の設計には頭を悩ませましたが、建物を支える梁の中に配線を収納できるようにしたことで解決しました。これで、照明だけが梁の縁に付いているように見えます。最低限のものしか配置されていない天井は、空間の開放感・快適性を大きく向上させると思います。普通は気が付かないような細かい部分で人の快適さを追求していくのも電気設備設計のやりがいですね。また、外の明るさを感知して照明の光を調節する照度センサーを取り付けることで、エネルギー削減にも配慮しました。
竣工間際、日が落ちた後で全ての照明をつけて建物を外から眺めてみました。スマートさにこだわった外観の照明や、建物の中にともる光にも雰囲気があって、良いオフィスができたな、と嬉しく思いました。
①②③
①Orange Innovation Plazaの建設現場
②DEN2 Hall。発表会などに活用できる空間になっている。
③DEN4 Studioのミーティングスペース。
工事監理祝迫 省吾 Shogo Iwaizako
私はもともと2020年に竣工した事務管理棟の工事監理に携わっており、2019年より日立建機土浦工場に常駐となりました。本プロジェクトに参画したのは2021年、工事着工のタイミングです。この案件には当社も熟練のメンバーを多く結集させていたので、自分がその一員として参画できることに喜びとプレッシャーを感じました。私の役割は、設計図書を確認し、設計者の意図や建設コンセプトが正しく現場の工事に反映されるよう監理することです。私自身も工事が進む中でワークショップメンバーとの打ち合わせに参加し、図面だけでは知り得なかった従業員の方々の思いを深く理解しながら進行することができました。
本プロジェクトには、いくつかの難関がありました。まず現場となる土浦工場内に複数の工場があり、その稼働を止めないように工事をすること。また当時はコロナ禍であったので、作業スタッフの体調や感染状況へのリスクを考慮した対策を取ること。現場に毎日足を運び、毎週定例会議を行うことで関係者と密に情報共有をしながら進行していきました。安全かつ工期通りに竣工できたときは、心底ほっとする思いでした。
もちろん、全てがスムーズに進んだわけではありません。時に、現場では予期せぬ出来事が起こることもあります。その都度品質・工期・費用のバランスを考え、最適解を探りました。想定していなかった配管などが地中から見つかったときは、一旦作業を止めて他の工事進行を調整しました。また、長い工期の間には材料の入荷が遅れたり、工事の都合で稼働中の工場を1日停電させなければならないといった事態もありました。そのたびに施工会社や社内のメンバーと協議し、関係各所に丁寧な説明をしながら工程調整を実行。品質を担保しながら最善のスケジュールで進行するよう努めました。
竣工後の内覧会には、ワークショップメンバーである従業員の方々も参加しました。新設の要望があったリフレッシュスペースや、場所を選ばず自由に作業や打ち合わせができる空間設計など、Orange Innovation Plazaはあらゆるスペックが向上しています。「DEN2 Hall」においては「ここでこういう発表会ができるんじゃないか」など、実際の使い方について期待の声も聞こえてきました。建物内を見て回る従業員の皆さんの表情は輝いていて、私もプロジェクトを達成した喜びを実感しました。
浅岡 翔太
Shota Asaoka
竣工式で、日立建機の平野社長(現会長)が来賓の方々に胸を張って建物の魅力を説明されていた姿が、とても印象に残っています。また、建築雑誌に取り上げていただいたり、第37回 茨城建築文化賞にも入選できました。多方面から高い評価を受けた研究開発オフィスを作ることができたのは、当社のメンバーと施工者だけではなく、日立建機のご担当者やワークショップに参加いただいた従業員の方々など、たくさんの人が一丸となって本プロジェクトを進めてきたからだと考えています。
酒井 諒
Ryo Sakai
Orange Innovation Plazaが本格稼働した後に従業員アンケートを実施したところ、約90%の方々から総合的に満足しているという回答をいただきました。私は末席での参画でしたが、この結果は自分にとって大きな自信になったと同時に、改めて設計者としての責任の大きさを感じて身が引き締まる思いでした。このプロジェクトで学んだこと経験したことを生かして、1日も早くチームを引っ張っていけるよう、一層精進していきます。
渡邊 勇大
Yudai Watanabe
前職では施工管理を担当していました。設計職として当社に転職し2年目に本プロジェクトに参画。経験が浅いことへの不安はありましたが、前職で工場や倉庫の案件に携わった経験を生かして尽力し、今ではいちばん思い入れのある建物になりました。竣工後の建物内で、さまざまな場所で人々が楽しそうに会話をしているのを見て「コミュニケーションを誘発する」というコンセプトがしっかりと反映されたオフィスが完成したのだと改めて達成感が得られたことを今でも覚えています。
祝迫 省吾
Shogo Iwaizako
本件は、それまでの私のキャリアのなかで最大規模のプロジェクトでした。コロナ禍においての進行ということもあり、さまざまな困難はありましたが、信頼できるチームメンバーと意見を出し合い、解決していく中で、改めて組織設計事務所である当社の強みを感じました。知的生産性向上と自由な発想を生み出すオフィスとして、働く人たちの思いが込められたOrange Innovation Plazaが日立建機の躍進を支えることを願っています。
顧客名 | 日立建機株式会社 |
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所在地 | 茨城県土浦市 |
用途 | オフィス/事務所 |
延べ面積 | 26,025m² |
主構造 | S※造 |
階数 | 地上7階 |
竣工年月 | 2022年12月 |
*インタビュー内容は、2025年サイト掲載時のものです。